毎年3月8日は女性の生き方を考える日「国際女性デー」。BOODYでは様々な仕事やアクションに携わる女性にお話を伺いました。第1回は、児童養護施設や乳児院の子どもたちの七五三や成人式をお祝いする活動をされている市ヶ坪さゆりさんに、活動を通して感じた日本の現状や未来ある子どもたちへの想いを伺いました。
ー ついに市ケ坪さんにお会いできて光栄です。
「そうですね!ついにですね〜。」
ー 昨年の国際女性デーの取り組みのひとつとして、イチゴイニシアチブ の活動へBOODYのアイテムを寄付させていただいた際にウェブ上でお会いしたことはありましたが、対面でのご挨拶は初めてですね。お会いできるのを楽しみにしておりました!
「こちらこそ本当に嬉しいです!」
ー では早速ですが、改めて市ヶ坪さんの活動についてお伺いできればと思います。
「はい。」
ー 市ヶ坪さんは現在、一般社団法人いちご言祝ぎの杜として日本の児童養護施設を中心に、プロの方々の手で七五三や成人式と行った伝統的なお祝いの儀式を子どもたちに贈るイチゴイニシアチブの活動と、ままならない道を歩んできた女性や少女たちに笑顔と尊重を届けるガールズフリッジ というプロジェクトを推進されていると伺いました。多岐に渡って活動をされていますが、このような女性を応援する活動を始めることになったきっかけはなんだったのでしょうか?
「秋葉原の無差別殺傷事件 があって。それが活動を始めるきっかけでした。
この事件の前までは、恥ずかしながら、日本の子どもたちが児童虐待にあっていることはあまり知りませんでした。事件をきっかけに加害者の生い立ちを知ることになり、海外の児童虐待の話はよく耳にしていたのに、自分の住む街のどこかにも虐待を受けている子どもがいるかもしれないということに苦しみを覚えました。力も大人と対等ではない子どもにすることは、虐待であるとともに重大な人権侵害だと思いました。
加害者は絶対に許されないことをしましたが、加害者の生い立ちの中に大変苦しいものがありました。加害者は幼少期、家庭で虐げられ学校でもいじめを受けていたとのことです。その話を聞いて、誰も寄り添わなかった社会に疑問を抱きました。答えは分かりませんが、たった一人でも寄り添う人がいれば違ったかもしれないと思いました。当時私には2歳の子どもがいて、普通に自分や子どもが街で友だちとおしゃべりしながら歩いているような時に、逃げ場のないところで事件に巻き込まれてしまうという可能性があると気づき恐ろしさを感じました。子どもを24時間ずっと見守ることができない不安や、高齢出産だったため、もし私に何かあったら、という思いもありました。同時に今この瞬間にも苦しい思いをしている子どもがいることが頭から離れず、まずは国内の児童虐待のことを知ろうと思いました。が、手がかりがない。虐待を生き延びている子がどこにいるかもわからない。報道されるのは凄惨な事件になってから。そんな状況に悶々としていました。
そんななかで自分が悔いがなく生きるにはどうしたらいのか、社会に私は何ができるのか。砂漠の中の一滴、もしかしたら一滴にもならないかもしれませんが、とにかく行動しようと思いました。
自ら動いてみよう。でも何をするんだ?と考えた時に、様々な困難を抱えている子どもたちに会いに行って『あなたの人生は誰からも否定されるものではなくて、あなたは本当に素晴らしい存在だよ』と言いたいと思いました。」
ー それが初めて児童養護施設に行かれたきっかけになったんですね。
「はい。扉をトントンとノックしに行こうと。まずは自宅から1番近いカトリック系の施設に向かいました。当時はそのことについて周りから『ローカルだね』と言われましたが、私はまず自分の地域で、自分の足で行動したかったんです。まずはじめに、勇気を振り絞って施設に電話をかけてみました。」
ー 電話をする時になにか事前に施設の方にお伝えしたいことなどはあったのですか?
「正直なにを伝えればいいのかも全くわかっておらず、『なんて言えばいいかな?』と考えながら電話をしました。ただ一つ自分の中で決めていたことがあって、子どもたちのお誕生日をお祝いしたいなと。」
ー お誕生日、ですか?
「はい。子どもたちに「おめでとう!」を言いたくて。普段あまり目にしないブルーやイエローのクリームのカラフルなケーキを届けて、子どもたちがびっくりして楽しんでくれればいいなと思っていました。」
ー そのケーキを囲んで一緒にお祝いをしたかった、ということでしょうか。
「いえ、私はただカラフルなケーキをデリバリーする係で、そのケーキを受け取った子ども自身が、信頼しているシスターや家族のような他の子どもたちと一緒にただ楽しく祝福される時間を過ごせるようにと思っていました。」
ー 素敵な考えですね。
「これを元気よくシスターに言ったんです。そしたらシスターが、『ごめんなさい、市ヶ坪さん。ケーキは外資の会社からサポートされてるんです』と。あぁ、これは一個人がやっても出る幕はないなぁと。でもシスターとはそのままお話をさせていただきました。」
ー どのようなお話をされたのでしょうか。
「シスターはとても親切な方で色々なお話をしてくださいました。その中で彼女からある質問を投げかけられました。『ところで市ヶ坪さん。あなた、訪ねた施設はいくつ目?』と。いくつ目と聞かれても、日本に施設がいくつあるかも知りません。『一つ目...』と。」
ー シスターはなんと仰ったんでしょうか。
「『あなたみたいな人はいない。東京には約60施設あっても、あなたみたいに個人からの ”隣のおばちゃん” みたいな提案は、あまり受け入れられないかもしれない』と教えていただいて。ケーキはすでに他からサポートされているから、お誕生日を一緒にお祝いする他の方法を一緒に考えましょうと言ってくださいました。」
ー そんな素敵なシスターとの出逢いから市ヶ坪さんの活動が始まっていくんですね。
「活動をするにはお金が必要。だから活動を始めるにあたり決めていたことは、自分の身の丈にあったことをしようということでした。このスタンスを変えずに自分にできることを考えました。当時私はファッションのPRの仕事をしていて、ネイリスト(以下マニキュアリスト)なら毎月送り込めるな、と。男の子に対するアイデアはその時は浮かばなくて『ごめん、今は考えられないからまずは女の子のことだけ考えさせて』と(笑)。」
ー マニキュアリストを派遣されるとはどのようなことでしょうか。
「マニキュアリストを施設に呼んで、そこにお誕生月のバースデーガールたちとみんなで和気あいあいとネイルを楽しんでくれたらいいなとシスターに提案させていただいたところ、『珍しいけどすごくいいんじゃない?』と。」
ー お祝いの日におしゃれを楽しむという今の活動の原点が作り上げられたんですね。
「この話をファッション仲間やカメラマン事務所の社長にお話する機会があって、社長から、『もしかしてそこにいる子どもたちって、自分の写真が少ないんじゃない?うちがカメラマン出すよ』と仰っていただいて。でもこの事務所がとても有名なところだったので、『お金はないんです』と包み隠さずに言うと、『うちがカメラマン出さなくてどこが出すのよ』と仰ってくださり、お誕生日のポートレート写真を撮っていただけることになったんです。そこからどんどん話が拡がって、ヘアメイクやスタイリストの方々も協力をしてくださることに。ひとりひとりの持っている力を合わせた ”幕の内弁当チーム” が完成しました。」
ー 市ヶ坪さんの人脈あってこその素晴らしいチームですね。
「その年の4月から毎月施設にお邪魔させていただくことになり、4月は4人の女の子たちがお誕生日を迎えました。子どもたちは『おもしろそうな人たちが来た!』と興味津々。遊びながら準備をしていると、お誕生日でない子どもたちも見に来てくれて『わたしもお誕生日になったらやってもらえるんだ』とわくわくした表情。
翌月、前月に経験した4月生まれの子どもたちが5月生まれの子どもたちのお祝いのお手伝いをしてくれるんです。毎月毎月イベントを楽しむ子どもたちが増え、それを見ていたシスターが『シンデレラプロジェクト』と名付けてくださいました。
毎月施設を訪ねることで四季の移ろいと共に子どもたちの素敵な表情を見せてもらえました。このプロジェクトに集まったカメラマンもスタイリストもヘアメークも、全員がプロの方々。それぞれのプロフェッショナルたちが全力で子どもたちと一緒に作り上げていく感じは、支援というよりも、一緒に新しい体験をしている感覚ですね。」
自分って素敵だぜ、と再認識してもらいたくて。自分は本当に素晴らしい大事な存在いうことをしっかり認識してもらいたいのです。施設に入所してくる子どもの年齢はだいたい6歳未満が多いと聞きます。健やかにのびのびと成長する時期です。そんな時に施設でも手厚くケアはされていても、新しい環境で不安や心にざわつきが出てしまうことも。そんな時だからこそ、その子の存在そのものを祝福したい。明るい光りで包みたい。
同時に、子どもたち、そして人の尊厳を大事にしたいと伝えたくて。可哀想な子がいるという認識も散見されるなか、確かに人の感情を大きく揺さぶりますが、そういう話は次第に目を背けていき、見たくなくなるんですよね。考えて動いてたった1ミリでも問題の解決に繋がるように、みんなで動いたら2ミリ、3ミリと小さな歩幅でも問題の本質に近づいていけると思うのです。子どもは可哀想な存在ではなくて、奇跡のような美しい存在なんです。」
ー 活動のお写真の中の子どもたちはとても輝いていますよね。
「(お写真を見ながら)すごく素敵ですよね!存在の強さ。色々なことがあってもそこにいてくれる、生きている、そのことに感動します。誰よりも強くて美しい子どもの姿をお伝えしたくて。写真があれば周りにも伝えられるなと。すごくシンプルな理由です。」
ー 子どもにも子どものプライドがあって、「私って可哀想」と思われたくないと思っている気がします。
「子どもにもプライドがあります。みんな言います。一生懸命生きている中で、可哀想って失礼ですよね。」
ー 現場はどのような雰囲気なのでしょうか。
「みんな綺麗で可愛くて。また、髪を結う人、着付け、その他のメンバーも本当に真剣で。いつも楽しくて飽きない現場なので、気がついたら12年も活動をしています。」
ー 子どもの七五三やお祝い事を観に来られる親御さんもいらっしゃるとお聞きしました。いろんな事情でお子さんと一緒に生活できない親御さんたちは、我が子の晴れ姿を見てどのような反応をされるのでしょうか。
「様々です。家族再投合の機会でもあります。交通費は出せるけど手土産を持ってこられない。そんな事情で来ることを躊躇される方もいらっしゃいます。精神疾患を抱えられているお母さんも多いです。そんなお母さんがお子さんの声を必死に叫ぶのですが、声が小さくて。親子での記念撮影は少し距離があります。ドラマに出てくる児童虐待は、力の強い大人が力の弱い子供に暴力をふるいますが、力のない人がいたたまれない気持ちで自分よりもっと力の弱い者にあたることもあるんです。暴力を生む構造の中に、もっと社会でできることがあるのではないかと考えています。」
お祝いをするとお母さんもお父さんも喜んでくれます。子どもを預けていることに対する後ろめたさもあり照れくさそうにしているのですが、私たちが子どもと一緒に和気あいあいとしているとだんだんと嬉しそうに入ってくださって。
外国籍のお母さんが多い施設では、お子さんのお写真を渡した瞬間に泣きながらひざまづいて「ありがとうございました」と言ってくださったこともありました。私たちも一瞬何が起きたか分からないくらい、感謝を述べてくださいました。私たちが考えている以上に、お母さんたちが背負っているものがあまりにも大きくて。そんな瞬間に立ち会っていくうちに私の気持ちにもどんどん響いて、最初は元気にお話が出来ていましたが、たくさんの方々とお会いしていくうちに、「私はなにが伝えられるのか?」と頼りない気持ちになってしまって。
ー 市ヶ坪さんのご支援されているお子さん達と市ヶ坪さんのお子さんは同世代になられたかと思います。市ヶ坪さんのお子さんは、市ヶ坪さんのご活動をどのように感じているのでしょうか?
「最初は『ママはどこか行っているな』くらいの感覚で。実はうちの主人、私がこういった活動をしていることを知らないんです(笑)」
ー え〜!そうだったんですか!
「お着物の数が増えてしまっているので今はうっすら気がついている気がしますが、『新しい商売しているのかな?』とはっきりは理解していないと思います。ただ私の母と子どもには活動内容をはっきりと伝えています。子どもがまだ小さい時から活動していたので、母の協力も必要で。最初からみんなに理解してもらう活動ではないと思っていましたが、母は私に「根を張るように下へ下へ行け」と言ってくれました。娘もばあばといることが楽しかったようで、私が活動にいく時は『いってらっしゃい』と元気に見送ってくれました。次第に活動が大きくなり、組織となり、イチゴのバッチを娘が見て、ママがやっていることがいいことか悪いことか、細かいことは分からなくても、大人が元気に動いている、なにか活動しているな、こう生き方もあるんだな、と思ってくれていたようでした。」
ー 市ヶ坪さんにとってこの活動は生きがいだったんですね。
「はい、生きがいとなりました。最初は一人では解決できない無力感がありました。組織にするつもりも全くなかったんです。こういった活動の必要がなくなることが私のゴールなので、大きくするつもりはありませんでしたが、周囲の方々がサポートしてくださって。そんな中で支援制度の漏れが浮き彫りになりました。
その1つがパンツ問題です。一時保護された女の子たちに与えられるパンツが使い回しのものであるところがあると。ひどいなと。洗濯しているから清潔といった問題ではないと感じました。どんな思いを背負ってここに来ていると思っているのか、と強い憤りを感じました。」
ー 新たな活動であるガールズフリッジでは、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。
「施設を卒園する女の子たちと支援を繋ぐ新しいかたちのソーシャルアクションプラットフォームです。現状では施設は18歳で卒園しなくてはなりません。卒園後は夜のお店で働く子や男性の家に転がり込むことも多いです。初めてのブラジャーを購入してくれたのは母親の恋人だった、という話を耳にしたことがありました。女性が性の対象として見られているなと改めて感じました。下着ひとつ取っても、深い問題を抱えていると思いました。生理用品を教わらず、血が滴ったまま歩いている子も見かけました。『おかしい』と言ってくれる大人が周りにいなかったからです。苦しかったです。今は色々なところでガールズフリッジの回収ボックスを設置予定です。下着や生理用品、コスメを詰め合わせたセットを女の子たちにプレゼントします。おしゃれという感覚で、女性に必要な日用品を贈って彼女たちを勇気づけたいという気持ちがあります。」
ー 今年施設を卒業する少女たちへメッセージをお願いいたします。
「自分は美しい存在だと言うことを忘れずに『わたし』という存在ををクリエイトしていってほしいです。自分を作り上げるのは自分だと言うことを理解して、生きていってほしいと願っています。」
今回、市ヶ坪さんの新たな活動であるガールズフリッジに、BOODYのショーツを寄付させていただきました。
生まれた環境によって、”当たり前” が当たり前でない女の子や女性が世界中にいます。一人一人が出来ることは小さいことかもしれません。でも、市ヶ坪さんは一人で動き始め、大きな輪を作りました。その勇気もきっかけも始まりも、一人の力から叶うと市ヶ坪さんから教えていただきました。
市ヶ坪さんのご活動や国際女性デーについて少しでも多くの方が関心を持つことで、この地球上で笑顔になる女性が増えていくことでしょう。
一人一人の意識から変わっていく未来。
3月8日。まず身近な女性に感謝と敬意を込めて、国際女性デーのシンボル、ミモザの花を贈ってみませんか。
一般社団法人いちご言祝ぎの杜 理事・市ヶ坪さゆり様、この度はインタビューの機会をいただき、また素敵なお時間をありがとうございました!